転、全速で離脱!」の命を下す。

 戦線離脱は処刑ものだが、武器がない戦闘機が戦線をウロついても意味がないというのがヒデキ中尉の持論なのだ。途中、味方の戦艦は全く見えなかったので、一路、母船へ舞い戻ったが、あるべきところに母船がない。あちこち径10万キロほどを敵に見つからぬように母船を探したら、ようやくお釈迦様の糞掃衣(ふんぞうえ)のようなボロ雑巾(ぞうきん)状態の母船にたどり着いた。

機上から降りるとき、何万というという戦闘員から大歓迎を受けたのにはビックリ。すぐさま武器の積み込み再出撃の用意をと、わざわざ出迎えに出てくれていた船長に頼んだが、「まー、会議室に来たまえ。」と言われ、他の4人の副操縦士ともども「やれやれ、軍法会議か。」と互いにガッカリしながら会議室に入る。

 そこには、船長以下、副船長を含めても4人が居るだけだった。「まー、こちらへどうそ。」とアラビア系の顔をした船長のアリ中将はやけにやさしい。戦闘機乗りのヒデキ中尉にとっては中将といえば高嶺(たかね)の花の存在だ。相互に紹介があって本題に入る。

アリ船長「一体全体、どうやって帰還できたのか、話してくれたまえ。」

私「どうやってと言われても・・・・・・。それより、補給後にすぐ再出撃したいのですが。」

アリ船長「戦争はもう終わったよ。わが軍は壊滅(かいめつ)したよ。」

私「えー、どういうことですか。」と他の4人の仲間も絶句。

アリ船長「副船長、戦況を説明してやってくれ。」

ということで副船長の井上大佐からの説明は聞いてビックリ、見てビックリのものだった。母船11隻、戦艦130隻のうち、どうも生き残った母船はこのアリ中将の1隻のみらしい。らしいというのは、まだすべての報告が集計されていないのだ。というよりも、連絡がまったくないので、多分、破壊されたのではという心もとないものだった。どうりで、我々の戦闘機がほとんど無傷に近い状態(とそのときは思っていた)で生還したとき、数万の人が大歓声をあげたわけだ。

 さらに、戦艦も戦闘能力を維持しているのが、なんと3隻、スクラップが16隻、あとの111隻はスクラップすらなく、消えてしまったらしい。各戦艦は平均120機の戦闘機を有しているので推定15000機が出撃して、戦艦にたどり着いた、あるいは現在飛行中の戦闘機はなんと62機で、そのうちの1機が我々なのだ。

井上大佐が説明している時、船長に報告が入り、すぐ我々に伝えられた内容はまさに「うそだろー。」というものだった。早い話が、先ほどの生存している戦闘機61機は敵と全然遭遇しなかったというのだ。あるいは敵、接近の報に、いざ、戦おうと武者ぶるいしているうちに、スクリーンに写る敵が突如反転したとの報告もあった。

つまり、敵と戦って生還した戦闘機はわれわれの「ゆきかぜ」ただ1機だけというのだから、これははっきりいって全滅に近い。戦ったと言ってもアメーバのチカチカを1回浴びただけなのだがね。天の川銀河から母船36隻、戦艦約700隻の大艦隊が増援に向かった

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